道徳の系譜読書感想文

善悪の彼岸の補足と銘打たれたこの論文は、比較的読みやすい言葉使いで記述された道徳の歴史論考として楽しめた。
私にとって善悪の彼岸は、理解するのが難しくこれで完結となるとニーチェの哲学を消化して頭の中に受け入れるにはまだまだ労苦が要りそうだ、と嘆息してしまうほどだったが、調べてみると、補足とさらに後に続く哲学的論文も存在するとのことだった。
道徳の系譜で語られているのは、良心の疾しさ、禁欲主義的宗教的思想、科学と道徳との連関など、題材にある通り読者層として広く門戸をひらいており、永劫回帰や超人に代表されるようなニーチェのとっつきにくそうなテーマを理解する為のものでなく、それに繋げて行く為の準備運動といった趣が窺える。
歴史的な事実を織り混ぜている部分も少なからず見られるが、ニーチェ独特の徳に対する思想が時折論文としての体裁を崩したような記述で示される時があり、そこに、ニーチェの世界へ引き込む誘惑が匂わされているように感じた。