自己を把握する基本的な原則

人間は、感性界に属する限り(感性的存在者としての人間は何か不足を感じるから、これを補おうとする)必要をもつような存在者である、そしてその限りにおいて彼の理性は、感性の側からの注文‐‐すなわち自分の面倒も見てもらいたいとか、また現世の生活における幸福はもとより、できることなら来世の生活の幸福までも考慮に入れた実践的格律を作ってほしいという注文を無下に斥けるわけにはいかないのである。とはいえ人間は、なんといってもまるまる動物に成りきれるものではないから、理性が感性の側からの頼みごとに煩わされることなく、独自の立場で発言する一切の事に無関心であったり、あるいはまた理性を感性的存在者としての人間に本来の必要を充足する為の道具としてのみ使用する事はできないのである。
カント
実践理性批判